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卵を産んだ鶏の写真

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2025.07.01
鳥インフルエンザはクラスター感染がおこるか?ヒトはウイルスの媒介者なのか?(2025年版「鶏と卵の研究所」 調査研究報告書より)

 鳥インフルエンザウイルスは野鳥からどのように家禽に感染するのだろうか?複雑であり原因は多岐にわたる。ヒトがいかんともしがたい要因から、ヒトが意識や行動を変容すれば対応できそうな要因まで様々である。では、どのような要因が考えられるだろうか。科学的に推察した韓国の論文を紹介する。

 韓国では2014年に発生した鳥インフルエンザに関して、時間経過と地域の発生をもとに韓国全土で統計解析した2つの報告書が公表された。一報は、韓国国内でクラスター発生が複数起こったとする内容、そして、二報目は、一報目の結果も加味して、農林部として原因を推定したもので、その要点を記載する。これが我が国で適応できるかはともかくとして、我が国でも同様の研究を行う余地は残されているように思う。

 2014年に韓国で高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスH5N8亜型による家禽における発生が393件報告され、家禽産業に甚大な経済的被害をもたらした。論文では、第1波(2014年1月~7月)および第2波(2014年9月~2015年6月)において、時空間相互作用分析を行い、時間と地域的な広がりの関係をもとに、11の時空間クラスターを同定した。その結果、ウイルスは韓国の南西部から導入され、中西部へと拡散したことが示され、HPAIの流行が、距離に関係なく、ほとんどが短期間の伝播で特徴づけられることを示した(図1に第1波の地域クラスター発生を示す)。

図1 韓国で発生したH5N8の第1波における家禽農場の時空間クラスター

 左の地図は韓国全域、(A)は中西部地域における時空間クラスター、(B)は南西部地域における時空間クラスターである。クラスターの位置は黒丸、クラスター名は黒矢印で示す。県の略称: CB:忠北、CN:忠南、GB:慶北、GG:京畿、GN:慶南、GW:江原、JB:全北、JN:全南

 上記で紹介した第1波における212件の発生に関して、疫学的研究を実施し、その内容を報告書としてまとめて公表している。時空間解析結果は上記で行われており、H5N8亜型ウイルスの侵入経路、伝播特性などを解析している。その中で、ウイルスは中国由来であるとしている。発生の内訳は、アヒル(159件、75%)、鶏(44件、20.8%)、その他 (9件、4.2%)であり、アヒルの中でも肉用アヒルが117件(アヒルの73.6%)であったが、発生農家544農家で殺処分は13,940,980羽であり、アヒル258農家(3,133,969羽)、鶏277農家(10,034,316羽)で鶏の殺処分数が多かった。また、1次発生の212件におけるウイルスの家禽舎への流入経路は、以下の7つに推定している。

  • 渡り鳥及び野生鳥類60(28.3%)、畜主及び関係者58(27.4%)、車両57(26.9%)、家畜移動15(7.1%)、近隣伝播15(7.1%)、系列管理4(1.9%)、餌供給3(1.4%)

 また、第2波においては、農場や市場に存在していたウイルスが、家畜運搬車両などを通じた伝播と関連していると推定している。

 さらに感染経路が推定できた29件について、農場へのウイルス伝播経路を以下に示している。

  • 発生農場からの伝播10件(45.5%)
  • 発生農場に出入りしたヒト、車両、物資などによる伝播7件(31.8%)
  • 発生農場の家畜と家畜運搬車両などによる伝播7件(8%)
  • 発生農場の畜主と家族など関係者による伝播2件(9.1%)
  • 事後管理不足でウイルスが農場外に流出1件(4.5%)
  • 同一管理者による汚染1件(4.5%)
  • 感染家禽の購入1件(4.5%)

 我が国との家禽の種類が異なっているので、この報告書の内容がそのまま適応できるかは難しいが、人為的なウイルスの伝播経路に注目してもよいかもしれない。韓国では、飼料運搬車両にGPSの装備が義務つけられているので、車両の運行経路をトレースできる体制になっている点も見習ってもよいかもしれない。同一車両が農場間を回るのは、リスク要因になりうるだろう。