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卵を産んだ鶏の写真

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2025.07.01
日本で世界初のゲノム編集鶏が実用化されるかも!!(孵卵中にメスとわかる卵とアレルギー低減卵)(2025年版「鶏と卵の研究所」 調査研究報告書より)

ゲノム編集食品とは

 ゲノム編集とは、特定の遺伝子を狙って切断し、その遺伝子を働かなくする(ノックアウト)技術であり、従来の手間と時間がかかる育種技術に代わる画期的な新技術である。通常、家畜の育種は、放射線照射や薬剤などで人為的に遺伝子に突然変異を起こし、有用形質を選抜し、その形質を何世代もかけて定着させていた。これが、ゲノム編集技術の応用により、狙った標的遺伝子を効率よく切断し、新しい形質を作り出すことができる(図1)。

図1 ゲノム編集技術応用食品を適切に理解するための6つのポイント               

(厚生労働省ホームページ:ゲノム編集技術応用食品:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000698489.pdf)より

 現在、その簡便性や確実性により世界中で注目されているゲノム編集技術であるが、その実用化に関しては日本が最も進んでいる。2021年9月からゲノム編集食品の販売が始まった。生産者は農水省へ「ゲノム編集食品」の届出と情報提供(ゲノム編集の方法、DNAやRNAの導入の有無、ゲノム編集生物の形質の変化と用途など)をすれば、Web掲載されて発売できる。現在、機能性成分GABAの多いトマト/可食部増量マダイ/高成長トラフグの3品目が国への届出・情報提供をすませ、主にネットで販売されている。

鶏に対するゲノム編集

 昨年2024年、ゲノム編集鶏の商業利用の可能性に関して、画期的な2つのプレスリリースが相次いで出された。「孵卵中にメスとわかる卵」と「アレルギー低減卵」を産むゲノム編集鶏である。それぞれ、外来遺伝子の導入はなく、鶏の持っている遺伝子をノックアウトしただけで、従来の育種と判別がつかず、ゲノム編集食品として届出と情報提供だけで商業利用が可能である。近い将来、世界発のゲノム編集鶏とその卵の商品化が期待されている。

1) 孵卵中にメスとわかる卵

世界の鶏卵産業ではオス/メス鑑別により年間約70億羽のオス雛(ヒヨコ)が淘汰され、日本でも毎年約1億3,000万羽以上のオス雛が淘汰されている。この採卵鶏のオス雛大量淘汰が動物福祉の観点から問題視され、ドイツでは2022年1月にオス雛淘汰禁止の法律が制定された。近い将来、より多くの欧州諸国が追随する予定とのことである。

徳島大学と同大学発ベンチャーのセツロテックが、網膜関連色素遺伝子をゲノム編集技術でノックアウトし、鳥類独自の卵のオス/メス判別方法を開発した。卵を割らずに外から光学的な観察で発生中の胚の「目の色」の違いを調べるとのことで、最短、孵卵7日目でオス胚が黒色の目であるのに対し、メス胚は無色透明な目となるため(図2)、その差を容易に見分けることが可能となる。メスになる卵だけ孵化させ、オスになる卵はワクチン生産などに有効利用することができる。

図2 鳥類独自の卵のオス/メス判別方法

(徳島大学プレスリリース:https://www.tokushima-u.ac.jp/docs/56930.html)より

 2) アレルギー低減卵

現在、食物アレルギー体質は全人口の1~2%(乳児では約10%)で、その原因食物は、1位が鶏卵で約33%を占めている。主な原因物質は卵白タンパク質のオボムコイドで、加熱調理や消化酵素で分解されてもアレルゲン性が失われない。広島大学とキユーピーの研究グループは鶏のオボムコイド遺伝子をゲノム編集でノックアウトし、オボムコイドを含まない鶏卵(アレルギー低減卵)の作出に成功した。オボムコイド以外のタンパク質は加熱することでアレルゲン性が低下するので、この卵は鶏卵アレルギー患者でも喫食できる可能性があることが期待される(図3)。実際に小児卵アレルギー患者での臨床試験も始まり、アレルギー低減卵の実用化も近いと期待されている。

図3 アレルギー低減卵の概略図

(農業産業振興機構HP:https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_003283.html)より